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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)604号 判決

埼玉県北足立郡大和町大字白子千二百六番地

控訴人(旧商号合資会社太陽チエーン製作所)

加賀チエーン工業合資会社

右代表者代表社員

八木隆盛

右訴訟代理人弁護士

矢部善夫

浦和市仲通三丁目

被控訴人

浦和税務署長 倉持喜悦

右指定代理人大蔵事務官

信野憲太

法務府事務官 堺沢良

関根達夫

泉山信一郎

右当事者間の昭和二十六年(ネ)第六〇四号国税滞納処分の執行取消控訴事件について、当裁判所は次の通り判決する

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取り消す。本件を浦和地方裁別所に差し戻すとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の供述は、控訴代理人において控訴人が本件差押について再調査の請求をしなかつたのは次のような事由によるのであるから、正当の事由があつたものである。即ち、控訴代理人は訴外東京部品工業株式会社の清算人として昭和二十五年八月九日浦和税務署からの通知により午後一時半頃出頭し、解散の顛末納税計画の実行等について総務課長と協議した。そのとき総務課長は営業全部の讓渡は租税債権に対する詐害行為であると断じ、営業全部の讓渡の効果として解散会社の債務を承継したものではないかなどとの意見を聞かされた。更に同月十七日午後一時浦和税務署長室で納税の打合せをしたのであるが、このとき同月十一日執行した本件差押は違法であるから取り消されたい旨を主張したが、列席した総務課長は重ねて営業全部の讓渡は詐害行為であるから、差押は有効であると強調して取消の要求を拒否したものである。このように浦和税務署の関係人は控訴代理人が本件差押の違法性を指摘して再度まで反省を求めたが応じなかつたのであるから、正式に再調査の請求をしても却下されることは充分予想せられたから、敢てこれを省略して本訴を提起した次第である、と陳述し、被控訴代理人において浦和税務署の総務課長が控訴人のいうように詐害行為であるといつても、それは単なる意見に過ぎない、控控訴人が本件差押に不服であれば再調査請求の方法があるから、控訴人のいうところは正当な事由に当らない、と陳述した外は、いずれも原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

証拠として、控訴代理人は甲第一号証を提出し、当該証人東出寅吉の証言を援用し、被控訴代理人は甲第一号証は知らないと述べた。

理由

控訴人は、原判決添附目録記載の物件は昭和二十五年六月五日訴外東京部品工業株式会社より讓り受けその所有権を取得したところ、被控訴人が右訴外会社に対する昭和二十五年度の法人税、取引高税、源泉徴収所得税等合計金一千六百十六万七千九百三十四円の滞納処分として同年八月十一日右物件に対してなした差押は違法であるから、該差押の取消を求めると主張している。しかし、控訴人が国税徴収法第三十一条の二による再調査の請求も、又、同条の三による審査の請求も経ていないことは控訴人の認めているところであるから、本訴は同条の四に規定によつて不適法として却下さるべきものであることは原判決の理由に説明してある通りである。

控訴人は前記事実摘示に記載してあるような理由により、国税徴収法第三十一条の四第一項但書の規定により再調査の請求をしなかつたことにつき正当な事由があつたのであるから、本訴は適法であると主張しているのであるが、控訴人が主張しているように、納税計画の協議や打合せ等に際し税務署の総務課長等が控訴人に対する前記訴外会社の営業全部の讓渡は租税債権に対する詐害行為であるとか、又は債務の承継があるとかいうようなことを主張し、差押は有効であるとして取消の要求を拒絶したことがあつたとしても、このようなことだけでは控訴人のいうように、再調査の決定を経ずして訴を提起するについて正当な事由があつたものということはできない。

何となれば、総務課長の右のような意見は控訴人の主張するような差押の適否の点について特別な調査と研究とに基くものではなくその場における一応の意見を述べたに過ぎないものであつて、税務署としては国税徴収法所定の正式な再調査の請求をしてきたのでなければ控訴人のいうような差押を違法とする理由について深く立ち入つた調査や研究をなした上、決定を与える職責を生じない訳であるから税務署の総務課長が前記のような意見を述べたことがあつたとしても、控訴人としては税務署長に対し再調査の請求をなす必要と実益とを有するものといわなければならないからである。

よつて原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担については民事訴訟法第八十九条第九十五条の各規定を適用し主文の通り判決する。

(裁判長判事 小堀保 判事 薄根正男 判事 原増司)

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